文庫版 絡新婦の理
2008.12.06 *Sat
![]() | 文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫) (2002/09) 京極 夏彦 商品詳細を見る |
京極堂シリーズ第五弾です。
このシリーズは同時並列的に異なる事件が発生し、それが次第に思わぬ関連性で結びついていく、という特徴を持った展開を見せていきます。
絡新婦の理ではその傾向がより顕著に現れています。
個々の事件はそれぞれ独立していると考えられるうえに、様々な偶然性に下支えされているように見受けられます。
しかしお互いの事件には何らかの類似構造、あるいは糸を繰るものの存在が薄っすらと見え隠れします。
個人が自由意志に基づいて行動していると思うのは当たり前ですが、今回の犯人はそれすらも計算し読み込んでいます。
それゆえ自由意志と思っているものでも、事件に関係する行動はすべからく犯人に誘導された行動であり、操作された意思行動になってしまいます。
さしもの京極堂ですらその例外にはなりえません。
卓越した言葉の波によって展開していく、因果の糸の物語。
ここまでの精緻で複雑な事象を作りこむ作者の技能には舌を巻きます。
破綻していないのがちょっと不思議なくらいです。
また今回はフェミニズムという繊細なものを扱った面があります。
フェミニズムと言うと女性権利拡大がうたわれるものですが、正確かつ的確に活動するためには、ずいぶんと考える必要がある物事が多いようです。
女性の権利を擁護するつもりの論調が、実は男根主義的思想に基づいたものであることは往々にしてあるのでしょう。それは女性にとっても例外ではないのかもしれません。
京極堂シリーズはいつも面白いうえに勉強になります。
ありがたいことです。
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